吃音と電話
電話が怖い・名前が言えない

「もしもし、○○ですが——」この一言が言えない。電話口で沈黙が続く、ガチャッと切れる、「はい?」と何度も聞き返される。吃音のある人にとって電話は、音読や発表と並んで最も恐怖を感じる場面のひとつです。これは本人の努力不足ではなく、吃音の特性によるものです。対処法と段階的な練習方法を解説します。

この記事の目次

  1. なぜ電話が特に怖いのか(神経学的な理由)
  2. 電話が特に怖い3つの理由
  3. 場面別「電話スクリプト」テンプレート
  4. 段階的な電話練習法(4ステップ)
  5. 学校場面での対応:先生への伝え方
  6. 代替コミュニケーションの使い方
  7. 保護者の方へ:声かけのポイント
  8. よくある質問(7つ)

なぜ電話が特に怖いのか:神経学的な理由

吃音のある人が最も苦手とする状況を調べた調査では、電話が「最も困難な場面」の上位に常にランクインしています。

対面と電話の最大の違いは「視覚情報の欠如」です。人が会話をするとき、私たちは相手の表情・うなずき・目線から膨大な情報を受け取っています。「今、相手は聞いてくれている」「少し待ってくれている」「理解してくれた」——これらのシグナルが、次の言葉を出す安心感を作っています。電話ではこれがゼロになります。

さらに吃音のある人には「予期不安(anticipatory anxiety)」という特有の現象があります。「詰まるかもしれない」という予期が、実際に電話をかける前からストレス反応を引き起こし、それがさらに吃音を強めるという悪循環です。電話はこの予期不安が最も起きやすい場面のひとつです。

加えて「ファーストワード問題(first-word problem)」があります。吃音は話し始めの最初の音で最も起きやすく、電話の「もしもし」「○○ですが」という冒頭フレーズはまさにこれに当たります。

しかし、系統的脱感作(段階的な暴露練習)が電話恐怖の軽減に効果的であることも示されています。少しずつ難易度を上げることで、恐怖反応は確実に下がっていきます。

参考:Brundage et al. (2006). "Situation avoidance in adults who stutter." American Journal of Speech-Language Pathology.

電話が特に怖い3つの理由

相手の顔が見えない(視覚情報ゼロ)

対面なら相手の表情で「待ってくれている」とわかります。電話では沈黙がそのまま不安になります。「切られたかも」「怒っているかも」という想像が止まらなくなります。

最初の一言のプレッシャー

「もしもし、○○ですが」という名乗りは最も吃音が出やすい場面のひとつ。話し始めの音が詰まりやすいのは吃音の特性です。かつ電話では即座に応答が求められます。

やり直しができない・間が怖い

対面では間があっても自然ですが、電話では沈黙が「回線トラブル?」「通じてない?」という焦りを生みます。焦れば焦るほど吃音は強まります。

場面別「電話スクリプト」テンプレート

事前に言う内容が決まっていると、脳のリソースを「何を言うか」ではなく「話すこと」に集中できます。吃音が出た場合のフォロー表現も一緒に覚えておきましょう。

電話を受けるとき(基本)

「はい、○○(名前)です。」

名前が詰まりやすい場合は「はい、どうぞ」だけで受けることもできます。名前は後から「○○ですが」と言い直せます。

先生への欠席連絡

「○年○組の△△(子どもの名前)の母/父です。本日、△△が体調不良のためお休みします。よろしくお願いします。」

電話が難しい場合は連絡帳アプリやメールが使える学校も増えています。事前に担任に「電話が苦手で…」と伝えておくと代替手段を案内してもらえます。

お店への予約・注文

「○時に○名で予約をお願いしたいのですが。」「○○をひとつお願いします。」

メモを手元に置いて電話しましょう。「少々お待ちください」「確認します」など、時間を稼ぐフレーズをひとつ覚えておくと余裕ができます。

友達の家への電話

「○○くん/ちゃんのお宅ですか?△△(自分の名前)ですが、○○くん/ちゃんはいますか?」

子どもが練習しやすい鉄板シナリオです。最初は親にロールプレイで練習してもらいましょう。「名前だけ言う練習」から始めるとハードルが下がります。

声が震えているとき:スマホのボリュームを少し下げると、自分の声の震えが相手に伝わりにくくなることがあります。また、立って電話するよりも座った方が体が安定し、声も安定しやすい傾向があります。

段階的な電話練習法

「いきなり電話させる」は逆効果です。恐怖が強化されるだけです。系統的に段階を踏むことが重要です。

Step 1

電話ごっこ(向かい合って)

スマホを使わず、向かい合って「もしもし、○○ですが」から始める練習。プレッシャーゼロで始められます。スクリプトを見ながらOKです。

Step 2

電話ごっこ(別の部屋で)

実際にスマホで親に電話する練習。相手の顔が見えない状況に慣れていきます。「声が出た」だけで十分。

Step 3

短い実電話(1分以内)

時報(117)や天気予報など、決まった内容を聞くだけの電話から始めます。実際の電話の感触を安全に体験。

Step 4

実際の場面での練習

まずは「注文確認の電話」など、短い用件から。徐々に慣れていくことで、恐怖は管理できるようになります。スクリプトカードを手元に置いて電話するのも有効です。

学校場面での対応:先生への伝え方

電話恐怖は学校場面でも現れます。たとえば「出欠の返事」「授業中の発言」「職場体験での電話応対」など。先生に伝えておくことで、適切な配慮が受けられます。

先生に伝えるポイント

  • 吃音があること、電話や突然の発言が特に難しいことを伝える
  • 「急かさないで待ってほしい」と具体的にお願いする
  • クラスメートが笑った場合にフォローをお願いする
  • 職場体験・電話当番など、電話が必須の場面は事前に相談する

出欠・ホームルームの場面

「はい」という返事でも吃音が出ることがあります。先生に「少し間があっても待ってほしい」と伝えておくだけで、子どもの安心感が大きく変わります。出席番号順に素早く答えなければいけない場面が最も辛いため、先生に事情を伝えておくことが第一歩です。

代替コミュニケーションの使い方

電話をすべて避けるのは現実的ではありませんが、代替手段をうまく使うことで生活のストレスを減らすことができます。「避ける」と「使い分ける」は違います。

✅ 代替手段を使っていい場面

  • 飲食店・美容院などの予約(予約アプリ・公式サイトのフォームを使う)
  • 学校への欠席連絡(連絡帳アプリ・メールが使える学校も多い)
  • 友達との連絡(LINE・メッセージアプリで代替)
  • 問い合わせ全般(チャットサポートが充実している)

⚠️ 電話を使う練習も大切な場面

完全に電話を避け続けると、恐怖はどんどん強まります。「低プレッシャーな電話を定期的に経験する」ことで、恐怖のレベルを管理できます。

  • 親や祖父母への電話(安全な練習相手として活用)
  • スクリプトを準備した上での短い電話(予約確認など)
  • 「名前だけ言う」「ありがとうございましたと言って切る」など部分練習

保護者の方へ:声かけのポイント

「詰まっても大丈夫。ちゃんと伝わったよ」と伝える(成功体験として定着させる)
「もっとうまく話して」は禁句(プレッシャーが増す)
子どもが電話を嫌がっても、代わりに全部やってしまわない(できた体験が大切)
小さな挑戦を一緒に喜ぶ(「今日の電話、できたね!」)
スクリプトカードを一緒に作る(「何を言えばいいか」の安心感が吃音を和らげる)

よくある質問

Q. 吃音があると電話がなぜ特に怖いのですか?

A. 電話は相手の顔が見えず、沈黙が続くと切られてしまう恐怖があります。また「最初の一言(名前や用件)」を言わなければならないプレッシャーが強く、吃音が出やすい場面です。相手が待ってくれているかどうかわからない不安も重なります。

Q. 子どもが電話を怖がっているとき、親はどうすればいい?

A. 無理に電話させることは避けましょう。まずは「ロールプレイ(練習電話)」から始めて、成功体験を積み重ねることが大切です。吃音があっても電話できた体験を少しずつ積んでいくことで、恐怖は薄れていきます。

Q. 電話の練習はどうやってすればいいですか?

A. まず親子で向かい合って「電話ごっこ」をするところから始めます。慣れてきたら別の部屋で電話ごっこ、次に本物の電話で短い会話(時報など)、そして実際の電話へと段階的に進めます。最初の一言だけ言う練習から始めるのが効果的です。

Q. 吃音があっても電話ができるようになりますか?

A. はい、段階的な練習で多くの方が電話への恐怖を減らすことができます。「完璧に話す」ことを目標にするのではなく、「詰まっても伝えられた」という体験を積み重ねることが重要です。電話を完全になくすことは現実的ではありませんが、恐怖を管理できるようになることは十分可能です。

Q. スマホ時代に電話しなくて済む方法はありますか?

A. LINEやメール・予約アプリなど代替手段を積極的に使うことは有効です。ただし「電話を完全に避ける」ことには限界があり、避けるほど恐怖は強まる傾向があります。代替手段を使いつつ、低プレッシャーな場面での小さな電話体験を積み重ねるバランスが大切です。

Q. 大人になっても電話への恐怖は続きますか?

A. 成人の吃音者の多くが電話を苦手としています。ただし、練習や経験を積むことで恐怖は軽減できます。認知行動療法や言語療法も効果的です。「完全に消える」ことは難しくても「管理できる」「仕事で使えるレベルになる」ことは十分可能です。

Q. 職場の電話対応が不安です。どうすればいいですか?

A. 事前に使うフレーズをメモしておき、手元に置いて電話することが有効です。「少々お待ちください」など時間を稼ぐ表現を使うことで、次の言葉を準備できます。また、信頼できる上司に吃音のことを伝えておくと、配慮してもらえることがあります。完璧を目指さず「伝わった」ことを成功と定義することが大切です。

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電話で吃音が悪化する理由

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